「旦那が、この祭りに乗じて堂々と浮気しよるなんてなあ」
軋んだ心臓が、ぶちりとねじ切れて落ちる。機能を停止した頭で理解をするよりも身体の方が素早く動いていた。来た道を、再び、
走る、走る、走る。
おかしいと思った。見回りをしていたのならこんな狭い村、俺とどこかでは会うはずなのに。アイツどころか猫一匹いやしなかった。それに、四年前も会っていない。会ったりなんか、しなかった。
『毎年損な役回り』
『一人で見回り』
『よう騙せれんよ』
『堂々と浮気』
嘘だろ。ふざけんなよ。四年前から、もしかするともっと前から?俺と母さんを、ずっと、ずっと、――騙していたのか?
「クソったれが!」
空に向けられた咆哮は、きっと月だけが聴いていた。
紅く、不気味な月だけが。



