「ひとまず、黒川さんが今したいことって何だろう?」
私が今したいこと。
涙が落ちついて、ぱっと浮かんだのは、莉乃の笑った顔だった。
「ケーキ、たらふく食べたい」
「だめ」
即答された。
「乳脂肪は黒川さんにとって大敵だ」
自分が病気だということを忘れていた。
食事の機会が今はないから、気をつける頭なんてなかった。
「かわいそうだけど、これからは甘いものやジャンクフード、脂っこいものは避けてもらうことになる」
だからか、と思った。
入院前、莉乃とケーキバイキングに行き、ラーメンを食べたあの一日は、私の大腸にとってかなりの負担になったに違いない。
「食べること以外に、今できそうなことでしたいことは?」
「友達に会いたいです」
「それは週末のお楽しみ」
「もー、なに言ってもだめじゃないですか」
「もっと、簡単に叶えられることでいいんだよ」
何も思いつかないのだ。
そうだ、と思いついたらしい江口先生は立ち上がって、私に会議室を出るように促す。
「先生のところに行こう」
先生、と言われて思い浮かんだのは、神崎先生。
神崎先生はだいぶフリーダムな人に見えるけど、一応お医者さんだし、平日の夕方って暇なのかな。