「莉乃、さすがに私」
「紗菜が長距離やるなら、私短距離出るから!」
莉乃は現役陸上部。
短距離が専門だ。
「時間合うときは一緒に練習しよう!…っていっても、練習内容は全く違うけど」
と莉乃が無駄に笑い始めたところで、担任の声が自分の席に戻るように促す。
決まりね!と気合い十分な莉乃にしかめっ面してみたが、彼女の満面の笑みは崩れなかった。
学級委員の仕切りの下、次々と事は決まっていく。
莉乃は当然のように、短距離出場が決まった。
「じゃー、女子の長距離!」
静まり返った教室。
その空気を裂くように、だるい返事と共に手をあげたのは、案の定私だけだった。
ちらり、斜め後ろを振り向くと、莉乃は満面の笑み。
もう一人の選出に時間がかかりまくったけど、気づけば私は頭の中に早くも練習日程を組み始めている自分がいる。
1位じゃなくてもいい。
どうせやるなら、今の私はどのくらい走れるのか挑戦したくなった。
久しぶりの感覚に脳が麻痺したのか、自然と笑いそうになる。
帰りのホームルームが終わって、莉乃が駆け寄ってきた頃には、完全な練習スケジュールが脳内で組まれていた。
けれど。
「紗菜、今日私、部活休みだから練習ね」
「え?早くない?」
「部活ある日は一緒にできないもん!それに始めるのは早いほうが良いでしょ?」
嫌じゃない自分がいる。
少しだけ、光が見えた気がした。
走ることに燃えた日々が思い出される。
あの頃は、すべてが光って見えたものだ。
最近、体もなまってるし。
だるいし。
動かないからか食欲も落ちていたし。
ちょうどいいきっかけなのかもしれない。