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電車で3時間。
一言も声を発することなく辿りついた街。
駅前にいきなり高層ホテルが建ち並ぶ、都会。
すれ違う人が皆、都会人だと思うと、柄にもなく小さくなった気がして、その自己矛盾が気持ち悪かった。
私に病院を紹介してくれたひげ男、もとい内科医は、丁寧に紹介先の病院までの行き方を教えてくれたから、何の迷いもなく歩ける。
駅からは、病院行きのバスに乗って約15分。
満席に近かった乗客は、病院で大半が降車した。
さすが、県一番の設備がある病院。
紹介状がなければ受診できないとひげ男が言っていたけれど、その意味を改めて考えてみたら、自分が抱えるこの症状の重さが目に見えた気がした。
もう少し我慢すればよかったのに。
そう思っているのも、事実なんだけど。
降り立った場所には、想像以上に馬鹿でかい建物がそびえ立っていた。
「ホテルみたい」
久しぶりに発した声は、掠れていた。
間違いなく、私が目指していた場所だった。
人の海に流されるように広すぎる敷地に踏み込むと、広すぎるエントランスが私を出迎えた。
人で埋まった大量の長椅子。
その先には広い受付カウンター。
広さにあきれながらも、立ち止まって吹き抜けのロビーをゆっくり見渡してようやく、入院の受付を見つけた。
名前を名乗り紹介状を手渡すと、少し待たされたあとで手続きが終了したと再び呼ばれた。
「本日から入院の、黒川紗菜さんですね」
私を待っていたかのような対応に、小さくため息をついた。
来たくて来たんじゃないのに。
「今、病棟の看護師が参りますので、お掛けになってお待ちください」
誰もが、前を向いて歩いている。
私もそうやってここまでたどり着いたわけだけど、そうじゃなくて。
みんな、幸せに見えて仕方がないのだ。
だからといって幸せになりたいとは思わない。
他人の幸せが、私の中身のない人生をさらに際立たせるだけの話で。
病院という牢獄に入れられるくらいなら、いっそ――