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莉乃がした新井君の話は、バイバイと言っていつもの分かれ道で手を振って別れるまで続いた。
よくもあんなにも、ろくにしゃべったこともない人の話ができるものだ。
クレープ屋に1時間。
ルーズリーフは5分もしないで買った。
プリクラを撮りたいと言うから付き合って帰路につく頃には、太陽の面影はもう街のどこにも存在していなかった。
付き合う私も私だ。
嫌なら、付き合わないという選択だってできた。
だからブレブレのヤンキーみたいだと言われるのだ。
「おかえり、紗菜ちゃん」
「…ただいまー」
「ご飯、今できたところだから食べて」
だるい。だるい。だるい。
無視しないだけマシだと思ってよね。
ドカリと食卓の椅子に腰かけて、綺麗に盛り付けられた食事に手をつける。
今日はナポリタンとサラダ。
なにかと話しかけてくるけれど、相づちはてきとー。
テーブルの向かいに座ってるちっちゃい女の子は、私を盗み見ながら食事をしている。
ちっちゃい器に入ったナポリタンを、口の周りを真っ赤にしながら。
かわいいとは思うけれど、態度に示してまで伝えることはしない。
その代わりといっちゃあ変だけど、この子のことは睨まないようにしてる。
ちっちゃい頃の経験って、大きくなったときに性格に影響するっていうし。
ま、食卓をこんな空気にしてる時点で、彼女の人生に悪影響なんだろうけど。