エピローグ.LOZELO
「おはよう。行ってくるね」
「うん。気を付けてね」
台所でお味噌汁を仕込んでるママに声をかけて、体育祭で私を一位に導いたスニーカーのひもをしっかりと結んで、家を出る。
家から数分のところにある、川沿いの遊歩道。
疲れを引きずるような無理をしない程度になら、運動はしてもいい。
その許可を退院前にしっかりともらって、日課は朝のジョギングになった。
あの頃は春だった。桜が散った頃。
今は、すぐそこにいる夏を梅雨明けのからりとした空気の中で待っている。
あの頃。
私が未来を捨てたかった頃。
この遊歩道に私は近づかなかった。
私の心をえぐって、過去を思い出させる欠片がたくさん落ちてるから。
お母さんとよく散歩した、大好きな場所。
いつしか、避けて通るようになっていた場所。
思い出すとお母さんに会いたくなってどうしようもなくなるから、思い出すこともしないようになって。
でも、私はその代償にいつまでもお母さんがいなくなった現実を受け入れられなかった。
吐き出せない感情が渦を巻いて、真っ黒になって、何も見えなかった。
何も見ようとしなかった。
体の痛みが私に警告をするまでは。