今日は、特に何もない土曜日。
莉乃は夏美と遊ぶらしくて、あとで写真送るねーとメールが来た。
「杏子ちゃん、今日退院だね」
朝の担当は石山さんで、私の点滴を替えながら呟いている。
「紗菜ちゃんも、週明けの治療が終わったら、点滴抜いてもいいって言われるかな」
「やっと抜けるんだー。早く何にも気にせず寝たーい」
「杏子ちゃんも点滴取れたとき喜んでたもんね。何するにもすごい楽ーって」
思い返せば、たった数週間だけれど、杏子ちゃんの影響力は大きかった。
いつだって前向きで、笑っていて。
周りの人までもを笑顔にしてしまう、杏子ちゃん。
「紗菜ちゃんが退院したら、二人で退院祝いしなきゃね」
「でも、何でも食べたり飲んだりできないですよねー。それはつまんないなー」
「神崎先生はとにかく"うどんが一番いい!"って言ってるよ?」
「うどん食べて退院祝いですか?まぁ、それもいいかなぁ」
「でも、女子高生がうどん食べながら談笑って…なんか渋いね」
「恥ずかしくなったら神崎先生を恨みますね」
楽しみが、一つ一つ増えていく毎日。
それなのに、"今"だって幸せで。
退院しても、それに変わりはないだろうか。
幸せではない時だって、おんなじくらいあるかもしれない。
頑張れるかな。頑張りたいって、すごく思ってるけど。
「よし、今日の点滴はこれ一つだけだから、終わったら教えてね」
栄養剤の点滴が一つ。
見慣れたそれを見上げながら、私は今日一番大事な予定を石山さんに告げた。
「杏子ちゃんのとこに行ってもいいですか?」
午前中には終わらないだろうけど、たまに様子を見に来るかもしれないし。
長居するつもりだからそう伝えたら、石山さんはにっこり笑って、行ってらっしゃいと言ってくれた。