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二人が昼過ぎくらいに帰って、私はご飯を食べた。
気のせいか、ちょっとご飯の粒が大きくなってる?
舌に触る感触が、ご飯の形な気がする。
あとでママに報告しよっと。
喜んでくれるかな。
午後はお風呂の予定も入ってる。
石山さん来たら、点滴止めてもらおう。
そう思って、お風呂の道具を準備しようと思っていたら、黒川さーんと聞き慣れた声。
「先生、帰ったの?」
「さっき、お昼前ぐらいに帰りましたよ。どっさり宿題置いて」
私が指差す先には、さっきの紙袋。
「暇なくなっちゃうな」
「ま、ありがたいですけどね」
苦笑いしながら、ついさっきまで莉乃が座ってたパイプ椅子に、江口先生は腰をおろした。
「身構えてたみたいだったから、意外と普通で安心したよ」
私のことを言っているんだってすぐわかったけど、全部見抜かれてるなんて、恥ずかしすぎる。
「緊張しますよ。今まで反抗してきた人に心開くなんて」
強がってはみたけど、多分無駄なことなんだろう。
「別に今更何言われてもいいって覚悟はしてても、ちょっと怖くて」
「大丈夫だった?」
「進路の話とか、体調の話とか、普通にしたくらいで」
「そうか。安心した?」
頷いた私に江口先生は微笑んでくれた。
「何も気にせず、学校に戻れそうです」
でも、そう言葉にしてみて初めて、感じる違和感。
私の本意ではない気がする。
でも、頭の中では再出発の準備は整ってるはずなんだ。
「食事再開してからの経過もだいぶいいから、早くて来週末には退院できるよ」
「ほんとですか!うれしい」
早く家に帰りたいのも事実。
学校に行くのも、莉乃に会うのも、勉強するのも、楽しみなはずなのに。
「あとは、黒川さんの心の準備だけかな」