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土曜日の朝。

おはようのメールに綴られている、今からこっち出発するねーの文字に、少しだけ緊張が沸く。

いつもは嬉しいだけ。莉乃に会えるから。

でも今日はいつもと違う。

来客者はもう一人。

来なくてもいいとは言えず承諾したけれど、正直自信がなかった。

普通にいられる自信が。

入院前の私に、戻っちゃうんじゃないかって少し怖くて。

入院して見えてきた自分は、まだ定着しきっていなくてもどかしい。

これを、モラトリアムって言うんだろうか。

久しぶりの朝ご飯を終えてゆったりしていると、紗菜ちゃーんの声。

回診に来たのは神崎先生一人だった。


「今日、学校の先生が来るんだって?」

「そうみたいです。友達と一緒に来るって言ってました」

「…やっぱり不安そうな顔してるし」


神崎先生お得意の呟き。

やっぱり、って言葉が気になった。


「江口君が昨日言ってたよ。何か考え込んでる気がしたって」


人の心を読む能力に、江口先生は長けてる。

負の感情に敏感なのはきっと、江口先生の境遇にも関係があるのかもしれない。

なんて、根拠のない推測をこっそりしてみても、神崎先生は私を軽い微笑みで見つめることをやめない。


「なんですか」

「変わったなぁ、と思って」

「…痩せたとかですか?」


大笑いする神崎先生は、くまさんみたい。

澪が持ってるぬいぐるみのそれとは似ても似つかないけれど。

ガハガハ笑って、どっかの国の王様みたいにも見える。


「違うよ。性格の話だよ」

「え、性格?」

「うん。ずいぶん落ち着いたなぁと思って」