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「紗菜ちゃん?」
時刻は夕方。
私しか出ないのになと思いつつ、電話口の言葉はいつも同じだ。
お父さんが来た日の夜。
8時くらいに、久しぶりの長い振動がすると思ったら電話の着信で。
最近の調子や、足りないものはないかとか、いろいろと質問攻め。
嘘なんかじゃなく、本当に心配してくれているんだなと感じて、少し涙ぐんでいたのは誰にも内緒。
しっかりと私を娘として思ってくれていたんだなって思ったら、申し訳なくて、嬉しくて。
受け取ることを拒否していた愛情は、すごく大きくて、まだまだ受け止め切れていないけど。
ママがくれた手紙への返事の、そのまた返事みたいに"ママって呼んでくれるの?"と逆に質問をされたから、むず痒くて思わず笑いながら返事をした。
冗談ぽく"ママっ"と呼ぶと、笑ってくれるかと思ったら大号泣。
心配した澪の声が近づいてきて、"紗菜ちゃんがママって呼んでくれたから、嬉しくて泣いてるんだよ"と澪に教えていた。
澪も澪で、ママからケータイを取り上げたら、話が尽きないこと。
病院に行く時、絵本持っててもいい?とか、ミミちゃん連れてってもいい?とか。
ミミちゃんは、澪がお気に入りのウサギのぬいぐるみらしい。
澪のお気に入りも、どんどん覚えてあげたいなぁって思う。
ご飯を食べる時の会話も、リビングで遊ぶのも、きっと楽しみにしていたんだろう。
退院したらおねぇちゃんの部屋にお泊りする!とか、お風呂も一緒がいい!とか、小さい心には私との予定がいっぱいらしい。
澪なりに家族の様子を窺っていたのだろう。
そう思うと、澪の生きてきた6年を返すことはできない事実に心が痛む。
もっと、かわいがってあげられてたらなぁって。
そんな気持ちをママに匂わせたら、その分これから澪にいっぱい愛情注いであげて、と励まされた。