「貴様ら、これで終わったと思うなよ!」
 憎々しげに牢の中からそう叫ぶ初老の男に、シャルル・ド・ブロワは首を何度も横に振った。
「貴様こそ、この方をどの方だと心得ておる! 次のフランス王になられる御方だぞ!」
 そう言いながら、彼がノルマンディー公を示すと、口髭を撫でながら、彼は満足そうに微笑んだ。
「フン、どうせわしの権利を認めず、このようなカビくさい牢に入れるような奴に、礼など尽くしても無駄だろう!」
「じゃあ、せいぜい、イングランド軍が助けに来るのを待つんだな!」
 ブロワが吐き捨てるようにそう言うと、ムッとした表情で、ジャン・ド・モンフォールは言い返した。
「フン、そのようなものを待たずとも、妻がわしのことを助けに来るわ!」
「ほう! 女が助けに来るのを待つ、か! これは、面白い!」
 ノルマンディー公がそう言ってニヤリとすると、流石にモンフォールも顔をしかめ、視線を逸らした。
「まぁ……獄に繋いだとはいえ、一応、貴族として扱ってはやるゆえ、心配するな」
 そう上から目線で言ったのは、シャルル・ド・ブロワだった。
 何故、ここまで馬鹿にされねばならんのだ! ああ、ジャンヌ! 早く来てくれ……!
 そんな二人を横目で見ながら、ジャン・ド・モンフォールは心の中でそう叫んでいた。
 自分でも情けないとは思いながらも、今の彼には、妻のジャンヌ・ド・フランドルしか頼れる者がいなかったのである。