「……最近、邪魔になってきたな……」
 初春というにはまだ朝夕冷え込む日の朝、ロジャーはそう言うと、顔をしかめた。
「まさか、エドワードのこと……?」
 まだ寒いからか、掛布団にくるまりながらイザベラがそう尋ねると、彼は鼻で笑った。
「あんなガキのことなんて、眼中にないさ! そうじゃなくて、ケント伯って名乗ってる男のことさ!」
「ああ、エドモンドのことね」
 そう言うと、イザベラは安堵のため息をついた。
「ふ……。流石に息子のことは心配か?」
「まぁね。これでも一応、母親だし」
「そのうち『おばあ様』と呼ばれるようになるかもしれんしな」
 ロジャーのその言葉に、イザベラは目を吊り上げた。
「嫌なこと、言わないでちょうだい! いつ私がヨボヨボのお婆さんになったっていうのよ!」
「ヨボヨボではないし、若いが、あの坊主達に子供が出来れば、嫌でもそうなるってことだよ」
「それは……そうだけど……まだ、ずっと先の話よ」
「だといいがな」
 ロジャーがニヤニヤしながらそう言うと、イザベラは顔をしかめて、彼に枕を投げつけた。
「もう! どうして今日はそんなに嫌なことばかり言うのよ! いつもは世界一綺麗だって言うくせに!」
「嫌がる君も綺麗だと思ったのさ」
「もう、うまいこと言って!」
 そう言いながら、イザベラの頬は赤く染まり、まんざらでもない様子だった。
「それで、ロジャー、一体エドモンドをどうするつもりなの?」
「邪魔者は、排除するに限るだろ?」
 ロジャーはそう言うと、ニヤリとし、イザベルにキスをした。
「排除、ねぇ……。あんまり乱暴なことはしないでよ。あれでも一度、味方になってくれた人なんだし」
「前の陛下の廃位の時のことを言ってるのなら、だからこそ危険なんだよ」
「まぁ、兄を慕っているように見えたのに、廃位を共に迫ってくれたのは、意外だったけど……」
「それが、前の陛下の命を助ける為だったとしたら、どうだ?」
 その言葉に、流石のイザベラもまじまじと愛人を見た。
「まさか、あなた……」
「まぁ、君は、これ以上のことは知らなくていいよ。俺が全て、良いようにしておくからさ」
「そう……ね……」
 そう答えながら、イザベラは彼から目を逸らした。
「ふふ……。まだ少しお休み。俺の世界一のハニー」
 そんな彼女の頬に軽くキスをすると、部屋を後にした。
 ……何でも自分の想い通りになると思ってるのね。私が甘やかし過ぎたせいだろうけど、嫌な予感がするわ……。
 イザベラは心の中でそう呟くと、ドアに背を向けた。