──自分用のテントに戻ると、黒太子エドワードはまず、教皇からの書状に目を通した。
 ジョアン・オブ・ケントからの手紙は、おそらく礼状なので、教皇からの書状の方が政治的に重要な意味を持つと思って。
 だが、読み進めると、彼の顔はどんどんしかめっ面になってきてしまった。
「殿下……?」
 傍に居たチャンドスが心配してそう声をかけると、彼は書状から視線を外してため息をついた。
「ジョアンのことは、心配無い。ソールズベリー伯との婚姻は無効だと宣言し、ケント伯宛に書状も送って下さったそうなのでな。ただ……ブルターニュの方がややこしいことになっておるようだ」
 黒太子はそう言うと、顔をしかめた。
「ブルターニュというと、ジャン・ド・モンフォール伯とシャルル・ド・ブロワ、でしたか?」
「ああ」
「確か、モンフォール伯のほうは、数年前に既に病死しているのではありませんでしたか?」
「ああ。だが、夫人が息子を代理に立て、戦を続けておったらしい」
 黒太子のその言葉に、ジョン・チャンドスは目をみはった。
「それはそれは……。女傑というべきですかな? まぁ、最近は女性も強いですからなぁ」
「母上のように、な」
 苦笑しながら黒太子がそう言うと、一応臣下の身分のチャンドスは、何も言わずに苦笑した。
「問題は、先日のラ・ロッシュ=デリアンの戦いで、そのブロワも我が軍の捕虜となり、双方揃って、当事者がいなくなったことらしい」
「何と! 既に我が方の捕虜となっておったのですか?」
「ああ。私もカレーにかかりきりだったので、この書状で知ったところだ。情けない話だがな。……まぁ、父上は、あれでも国王故、ご存じでおられたと思うが……」
 黒太子がそう言うと、チャンドスは顎に手を当ててこう言った。
「では、陛下を通じて国王陛下にとりなしをしてもらい、戦に終結を、ということですかな?」
「まぁ、そういうことだな」
 黒太子はそう言うと、再びため息をついた。
「やれやれ、又、ややこしいことに巻き込まれてしまったわ」
「ブルターニュの戦は、ずっと続いておりますからな」
「だから、停戦せよと言ったところで、そう簡単に終わらせられるとも思わんのだ」
 そう言うと、黒太子は肩を落とした。
「確かに……」
 チャンドスもそう言うと、苦笑した。