「ほう……。無闇に市民を殺すな、か。これは、大きく出たな? 何ヶ月もわが軍を手こずらせておいて、降伏してきたと思えば、それか!」
 そう言うと、エドワード三世は、ドンと地面を蹴った。
「去年の包囲から数えて、どれだけの日数を費やしていると思っている? もう11ヶ月……一年近いのだぞ!」
 そう言うと、エドワード三世は、再び地面を蹴った。
「は、はい……。ですが……」
 そう言いかけるユスターシュを手で制し、エドワード三世は続けた。
「全市民を処刑するにしても、身代金をとるにしても、全て私の自由とするという、無条件降伏を要求する!」
「そんな!」
「ち、父上!」
 ユスターシュと黒太子が声を上げたのは、ほぼ同時であった。
 だが、非情にも、エドワード三世は手で二人を制した。
「そ、そんな……。それでは、私がここまで来た意味が無いではありませんか……」
「意味? それならば、あるであろう? 無条件降伏をカレー市民に伝えればよいのだ」
「そんな……!」
 悲愴な表情のユスターシュを前に、エドワード三世は鼻で笑った。
「フン、気に入らぬか? でも、とっとと帰ってもらうぞ! ここに居座られても迷惑なのでな!」
「ですが……!」
 青白い顔のまま、必死にエドワード三世にすがろうとするユスターシュを、彼は手で制した。
「今日はもう、これ以上の話は聞かぬ! 明日以降に色よい返事を持って来るのだな!」
「そんな!」
 ユスターシュはまだエドワード三世にすがろうとしたが、エドワード三世は非情にも目で侍従のエスターに合図をした。
 その途端にエスターは、傍にいた下士官に命令し、ユスターシュをその場から外に出したのだった。