臆病者の鬼遊び




しかし今の倫太郎に、七海子を叩き起こす事は出来なかった。


彼女は、倫太郎に顔を向けるように顎を上げ、安らかに目を閉じていた。


一瞬、ぐっと反応してしまった自分に舌打ちする。


そういえば、あの時も彼女は眼を閉じていたな、と……。


呼吸をする度に、小さく動く唇の、その柔かさを彼は知っている。


七海子が押し入れで気を失っていたあの時、彼はあまり深い事を考えずに、スポーツドリンクを口移しで飲ませた。


舌で歯をこじ開けて、無我夢中で流し込んだ。


ぐったりと力無く、目を閉じた彼女が、とても怖かった。


このまま目覚めないのではないかと、心底恐ろしくなった。


いま思うと、そこまでしなくてよかったのかもしれないが……。