空調が整っているものの、夏でも紋付の羽織を脱がない中年の男が、テーブルを挟んで向い側に座る花代を見て笑っていた。
彼女は苛立ち気味に、小袖姿でおまんじゅうを頬張り、笑われた事に対して更に怒った。
「まったく、よくも二日も待たせたわね!」
「仕方ないだろ。
ずっと、西の方に行ってたんだから」
「っていうと、京都まで?」
「ああ。向こうの長老の方々と、まあ色々とね」
「……ふうん。まあいいわ」
花代は、当主――才蔵に敬語を遣わずに会話する。
通常、それはありえない。
許されない。
実際、彼の実子――倫太郎でさえ、慇懃な姿勢を崩さないのだ。
事実、今となっては当主に敬語を遣わないのは、引退した直系の老人達と花代くらいになっていた。
花代にそれが許されるのは、彼女が直系の出であること、
そして何より、才蔵自身が彼女を信頼しているからであった。



