「当たり前だ。

木崎の『鬼』退治は、一人でなんかやらない。


必ず数人で『鬼』を追い詰めて、確実に仕留めるんだ」


「そう、じゃあ倫太郎君は、強いんだ」
 

倫子の言葉に、何故か倫太郎は傷付いたような顔をした。


「強い……かもしれない。でも……」
 

倫太郎は、ひと呼吸置いて、


「……俺は、『鬼』だ。


『鬼』は、『鬼』を殺す事ができない。


だから俺は……!」
 

役立たずなのは俺の方だ、と……。
 

苦しそうに、かすれた声で言った。


「『鬼』を、本当の意味で倒せるのは、お前だけだ……


お前にしか出来ないんだよ……七海子」

 

この時、七海子ははじめて、倫太郎が自分の名前を呼んだ事に気付いた。
 


そして、倫太郎に対する恐怖が、夕立のように呆気なく消え去っていったのを感じていた。



皮肉にも、七海子、というやさしい響きが、



いつまでも彼女の耳に、こびりつくように残った。