琥珀の記憶 雨の痛み

誰も気付かない。

私がスカートの丈を上げたことも。
私のつま先が湿っていることも。

私が今、何かを諦めたことも。

私が勝手な自己犠牲の精神で友達の笑顔を守ったことも。
――それで、勝手に傷ついていることも。


なんか、惨め。


歩くたびに揺れる、バッグに付けた琥珀の振動が気に障った。
今までこんなにも気になったことなどなかったのに。

マンションのエントランスに着いた時、衝動的にその石を握りしめて金具から引きちぎった。


そこはとても、大切な場所で。
尚吾くんと一緒に帰ってくると必ず少しだけ立ち話をする、2人だけの優しくて穏やかな時間を過ごした素敵な思い出の場所で。


――多分、もう二度とああいう時間は過ごせない。


自分のせいだと本当は分かっているのに、他の何かのせいにしたくてしょうがなかった。

そして……私が責任を何かに押し付けようとする時、その『何か』は必ずソレなのだ。
いつだって。

自分を憐れむことで、正当化して、そうして心を守っている。


手の中の小さな琥珀が全てを象徴していた。
元々そんな意味などなかったこの石に、私が勝手に後から、そういう意味を付け足しただけなのだろうけれど。


その石を、外した。
枷が外れたような気になった。

でも多分、スカートの丈と一緒で。
きっと誰も気が付かないし、私はそう簡単には、変わらない。