琥珀の記憶 雨の痛み

「莉緒も絶対タケなんだと思ってた」

別れ際、はにかんだような悲しそうな複雑な笑いを浮かべてナツはそう言った。
そう? と、曖昧な笑いで返す。

「優しいよねタケ。いいと……思うよ」


私が、彼を。
ではなくて、ナツにとって、彼が。

そう聞こえるギリギリのニュアンスを保つのは、結構至難の業だった。
難易度を考えたら、私は上手くやった方だ。
多分。

だってナツの複雑な笑いが、眩しいくらいの笑顔に変わったから。


「ナツも協力するからね!」

「え……何に?」

「莉緒はユウくんなんでしょう!?」


――うわぁ、そうなるのか!


「いらないいらない! それは不要なお心遣いデス!!」

「照れちゃって。ウブだなぁ莉緒は!」

「いやマジで! 照れとか違うし!」


完全に自分のペースを取り戻したナツには聞く耳もない。
最初に提示された二択からタケを弾いたら、必然的にもう片方ってことになるらしい。

いやもう完全に、論理学的に前提条件が間違ってますから。
なんて冷静に突っ込んだところで、頭にハテナを浮かべる様子が容易に想像出来てしまう。

半ば投げやりに「もうどーでもいいよ」と苦笑すると、私が一番好きなキラキラの笑顔を浮かべたナツはぶんぶんと大きく手を振って帰って行った。


――あのキラキラを、守れるのなら。


1人になって見つめたつま先は水たまりにはまって、ローファーの中に少しだけ、ジワリと水が滲みた。