琥珀の記憶 雨の痛み

思いの外スムーズに事が進んでいた。

必死になって何人お客様を捌いたか……、気が付いた時には、最初陳列棚の方まで伸びていた列の長さは半分くらいまで減っている。

今はどのレジも待ちが2、3人程度だ。
レジが1台増えた効果と、夕方の一番混む時間も過ぎたからだろう。
あとちょっとで、嘘みたいに波が引くはず。


――油断、していた。
慢心というべきか。
この調子ならもう大丈夫、と、気持ちが緩み始めた時だ。


「え、ピーマン158円でしょう?」


その袋詰めのピーマンにはバーコードが付いていなかった。
商品パネルからピーマンのキーを押して、読み上げた値段は198円。


どくんと心臓がなった。
頭の中が真っ白になっていく。


音だけが聞こえた。

隣のレジの商品スキャンのピッという音。
金額を読み上げる声、レジの開閉音、小銭の音。
子どもが騒ぐ声、それを叱る母親の声。
レジ待ちの主婦同士の雑談。
買い物カートの車輪が転がる音。

それから。


「158円って書いてあったんだけど」


待って。待って、落ち着いて。

ピーマンは2種類あったはず。
158円の小袋の方には、バーコードが付いている。
シールじゃなくて印字されてるやつだ、剥がれたわけじゃない。


――本当に?
昨日まではそうだった。
今日はどうだった?

売り場は見ていない。
今日のお客様で、ピーマン買っていった人はいたっけ。


どうすればいいんだっけ、こういう時。


「新田さん」


――……音、だけが。
よく、聞こえた。