琥珀の記憶 雨の痛み

急がなければならないこういう時に限って、最初のお客様からカゴが山盛りだ。

落ち着いて。
大丈夫。
2人制の時と、やってることは一緒なんだから。
焦っちゃダメ。


レジを開ける前から声をかけてきたくらいだ、この方は相当急いでいるかせっかちなのかもしれない。
研修中のバッジに気付いたようで、あからさまなため息を吐き出した。

けど、商品をスキャンしていく手さばきで判断してくれたのか、すぐにその不満そうな気配は消えていく。

そうよ、大丈夫。
バッジを外すことは、もう許されているんだから。
チェッカーもキャッシャーも、もうスピードは人並みだ。
正確さも丁寧さも――2人制の時限定だけど――お褒めの言葉をもらったこともある。

自信持って。


山盛りのカゴの底が見えてきた。
一番下に重たい牛乳パックが2本横になって敷かれていたのが現れても慌てない。
スキャン後のカゴのどの商品を移動すれば牛乳パックのスペースが取れるかは、頭の中に入っている。


「お待たせ致しました。6534円でございます」


お客様が満足そうに頷いたのは、買い物しながら概算していた金額と合致したからか、接客のスピードが合格点だったからか。
分からないけれど、まずまずのスタートを切れた。


ついクセで次のお客様の方へ向きかけて、慌てて戻る。
いけない、1人なんだから、まだ金銭授受が残っている。


「大きな袋2枚でよろしいですか?」

「3枚いただける?」

「かしこまりました」


忙しい時こそ、なるべく言葉を発する。
先方の無駄に待たされているという感覚をなくすため。
こっちの気持ちも、それでほぐれていく。