琥珀の記憶 雨の痛み

すぐに15番レジを離れ、開いているレジの一番後ろに着く。

その気配を察知したお客様からの視線を感じた。
停止板をどけると同時に人の波がこっちにも押し寄せてくるだろう。


スキャン台の電源を入れる。
ぶうん、と低い音がして、機械がゆっくりと起動する。
ロックされているレジに、社員コードを入力していく。
緊張から2回も押し間違えた。
レジの鍵を開けて、中の現金をチェック。

とっくに外してポケットに入れっぱなしだった研修中バッジを取り出して、名札の下に付けた。


――大丈夫? こんなに混んでいるのに。


クレームが出たら対応してくれる社員さんも不在だ。
当然、どんなに急いでも違算を出すわけにはいかない。


「このレジ、もう開きますか?」

……急いでいるお客様は、良く見てる。
私がレジを開ける瞬間を狙っている。


現金、レジ袋、テープ、海綿……オールOK。
尻込みしている場合ではない。


「お待たせ致しました。いらっしゃいませ!」

停止板を除けたと同時、声をかけてきたお客様がカゴを置いた。


「こちらのレジも解放します! お並びください!」


……嘘。並ばないで。

大きな声を出したのは、お客様の列を上手く流すためじゃなくて、ただ自分の緊張を跳ね除けるためだった。