琥珀の記憶 雨の痛み

苦笑いでナツの言う事を受け流そうとしていると、店内放送のBGMが切り替わりアナウンスが流れた。

お客様へのお呼び出し、という名目で、店内放送が呼んだのは『高田からお越しの三橋様』――統括マネージャーの三橋さんだ。

アップテンポのBGMとともにこのアナウンスが入るのは、三橋さん個人を呼び出しているわけではなく、レジが混んでいる時の応援要請の合図。

これが流れると、他の売り場からも手が空いてる社員さんがレジ応援に駆け付ける仕組みになっている。


「え、嘘。こんなに空いてるのに?」

思わずナツと顔を見合わせる。
バックヤードの小窓から見える店内には混雑している気配がなく、2人して首を傾げた。

「とりあえず急ぐわ、私。また後でね!」

売り場に出る間際、「頑張って~」と少し間延びしたような応援が背中に届いた。
マイペースでのんびり屋さんなナツのこの声のおかげで、売り場を走るという失態は犯さずに済んだ、けど。


売り場はやっぱり、空いている。

給料日後とか土日とか大きな広告が入った後ならともかく、今日はそんなに混む日でもないはずだ。
雨だし、むしろ来店が少なくて暇を持て余すような日なのに。

こんな日にレジ応援呼ぶなんて――


「え」


レジ前は騒然としていた。
開いているレジの列は商品陳列棚の間まで伸びている。

なんでこんなに、という理由は、すぐに分かった。
レジの台数がいつもよりもずっと少ないのだ。