「はい、決まりね」

満足そうに笑って言うタケ。

私を送ってくれるってことは、私の門限にあわせてバイト後のおしゃべりから途中抜けするってことなのに、嫌じゃないんだろうか。


どう考えたってタケにとって得するコトなんかない気がするのに、彼は嬉しそうで……なんか。

「うん……お願いします」

断る方が悪い気になったりして、結局、甘えてしまう。

なんだか恥ずかしくて中途半端な敬語が出たせいか、タケは顔をくしゃっとさせて目を細めた。


この時間を終わらせるのが勿体ないような気がするけど、いつまでもこのまま話し込んでたら、門限が来ちゃうんだよな……。

って、ちょっとそわそわした気配に気が付いてくれたのか、タケはジェスチャーで「そろそろ?」と聞いてくる。

頷くと向こうはゆっくりとした瞬きで了解を示してきて、アイコンタクトでの会話がくすぐったい。


「色々ありがとう。またね」

小さく手を振って、マンションの中へと入るために彼に向けた背中に「莉緒ちゃん」と声がかかった。

足を止めて上半身だけ振り返ると、タケは既にメットを装着しながら。


「みんな莉緒ちゃんのこと好きだよ。好きだから、嫌われたくなくて隠してたこととか。あんまり気にしないで」

じわりとその言葉を噛みしめている内に、タケは原付に跨って。


「――――……」

「え!?」


エンジンをかけた音で、タケの声は半分かき消された。