琥珀の記憶 雨の痛み

息が整うのを待って、自転車を押し始めた。

みんながいる従業員用出入り口の前を通らなくて済むように、いつも店の反対側をぐるりとまわって帰るのだ。

バイバイと言った後で、もう一度顔を合わせるのは何だか嫌だったから。


――今日は尚更だ。


バス通り沿いに出てから自転車に跨って、ペダルに足を乗せる。

1人になった後には結構全力で急がなければ、実際のところ、バイトの日用に決められた門限を過ぎてしまうのだ。

そういう気分ではないけど、こればかりは仕方がない。


自転車に乗ったまま地下道の坂を滑り下りる。

本当は禁止されてるけど、この急な坂を自転車から降りて押してたら、重力に引っ張られる自転車に引きずられて余計危険だもの……急いでるし。

さすがに、人通りの多い昼間はやらない。


この坂を自転車に乗ったまま下る時、いつもそう自分に言い訳をする。

上り坂に差し掛かった途中でどう頑張っても失速するから、そこからは自転車を押して坂を上る。


国道の下を潜り抜けるこの地下道を抜けると、右手に緑地公園が現れる。

その手前、10棟以上が連なる大型のマンションとの間の道は、車通りもほとんどない。

メイン通りの方の大きな踏切ではなく、私の家の方向に近い、車が通れない方の小さい踏切へと続く静かな抜け道だ。


後ろから近付いてくる軽いエンジン音に気が付いたのは、その抜け道に入った時だった。