琥珀の記憶 雨の痛み

「じゃ……じゃあね! お先にっ」


全員に聞こえるように少し大きめの声でそう言い残して、逃げるように駐輪場へ走った。


ローファーに履き替えてから、こんな風に走ったことはない。
なかなか馴染まない靴は少しだけ痛くて走りづらくて、それがまたチクリと刺さる。


何コレ、背伸び?
それとも、無理してる?

私にはローファーよりもスニーカーが合うのかもしれない。
ギリギリ膝丈のスカートが精一杯だし、門限を過ぎてまでみんなの輪の中にはいられない。

煙草なんか吸いたくもないし、みんなが吸ってるところも……本当は、見たくない。


なのに。


「……はぁ……ッ」

――息を切らすほど走ったわけじゃないのに、バスケで言うなら1クォーター終わったくらいの疲労感で、掴んだ自転車のグリップに全体重を預けて息を吐き出した。


こんなに息苦しいのに。
どうしてあの中に、いたいと思うのだろう。


部活を辞めて空っぽになった隙間を埋めてくれた、新しい居場所だった。

中学からの仲間がいて、目まぐるしく覚えることが沢山あって、新しい環境と出会いがあって。

ちょっとのスリル……親に吐いた小さな嘘の裏に成り立つ、バイトの後のおしゃべりには。
ワクワクするような、麻薬みたいな何か不思議な魅力があった。


今、そのクスリの効き目が途切れたみたいに突然息苦しさに襲われて。


――それでもなんでか、私はまだあの集団の『仲間』でありたいと思っている。