琥珀の記憶 雨の痛み

「えっえっ! 莉緒、帰るの!? もしかしてコレのせい!?」

帰る、と話していたのが聞こえたのか、慌てて近寄ってきたメグが、指に挟んだ煙草を申し訳なさそうに少しだけ上げて見せた。


「嘘ぉ、やだぁ。莉緒が嫌ならもう吸わない!」

メグの背中に隠れるようにして、ナツが泣きそうな顔を半分だけ出した。


「ちょっ、違う違う。気にしないでよ、全然大丈夫だから。時間だから帰るだけだから!」

と、顔の前で両手を振って誤魔化す。

全然大丈夫、が、どうか嘘に聞こえないようにと願いながら。


ほんとに? と不安そうな顔をする2人が、それでも手の中の煙草を消そうとはしないで、長くなった先端の灰を携帯灰皿に落とした。

ナツの灰皿は可愛らしい林檎モチーフで、何故かそれが、余計にやるせなさを感じさせる。


相変わらず壁にもたれた定位置で煙草をふかしているアイツが、また鼻で嗤ったような気がした。

見たくないのに、自然と顔がそっちへ向いてしまう。

視線が……絡む。


ユウくんは、口の端を歪めて笑った。
片目だけがその動きにあわせて細くなる。

その冷たい視線に、ゾクリと鳥肌が立った。


「じゃあね、優等生」

「……ッ!」


その『じゃあね』は、『またね』ではなくて。

これが最後だ、とでも宣告するような、冷たい言い方だった。