目指しているのはバイト先の駐輪場だった。
もうすっかり人気もなく空になったそこに、私の自転車と、彼の原付がぽつんと停まってる。


ここから始まって。
ここに、戻ってきた。


「私、本当はずっと――、尚吾くんのことが」

「莉緒」

言葉にする前に、私の『好き』は遮られた。


「ごめん、やっぱ俺が先に言いたい」

そう言った彼は、私が一番好きな顔で笑っていた。


そうか、私たちは。
ユウくんにまんまと嵌められてあの場で付き合おうということにはなったけど。

お互いに一度も、ちゃんと口に出してはその言葉を伝え合っていなかったんだ。


「好きだよ、莉緒」


――言葉にするってすごく、大切なことなんだ。

その言葉を聞いた瞬間、身体の奥から電気が突き抜けたみたいに震えが走った。
涙が、零れた。

尚吾くんはちょっと困ったような笑いを浮かべてそれを拭ってくれて。


「泣かせるつもりじゃなかったんだけど……、ちょっと。そんな顔されたら、抱きしめたくなるじゃん」

そう言って本当に、優しく抱きしめてくれた。


「も……無理かと」

「ん?」

腕の中で呟いた私に聞き返しながら、髪を撫でてくれる。

すごくドキドキして。
辛かった思いが、洗われていく。


「諦めなきゃ、忘れなきゃってずっと……」

「駄目だよそんなの、許さないよ」

「絶対もう、私を待っててなんかくれないって」

「――そう思ってたのは、俺の方だから」


その瞬間ぎゅっと腕に力が籠って、彼が微かに震えているのに気付いた。

苦しくて辛かったのが自分だけじゃなかったことに、その時漸く気が付いた。