琥珀の記憶 雨の痛み

「いんだよ莉緒ちゃん、別にそれがここのルールってワケじゃないんだから。俺だって煙草吸わないし」

私の肩に手を置いたまま、にこっと笑ってそう言ってくれたのはタケだった。


うわぁ。
この笑顔、超癒し系かも。

じんわりと、その優しさが浸透していく。


「一緒にいるからって、別に同じことする必要はないんだから」


そう、だよね……私、何ムキになってたんだろう。
別に煙草なんか吸わなくっていいのに。

タケだってこう言ってくれてるし、無理して合わせる必要なんかないじゃん。


「ユウはさ、みんなが自由に振る舞えないのに苛立ってただけだから」

と、タケは内緒話のように声を落とす。


「みんなカミングアウトしちゃったし、もう大丈夫。あとは、この環境を莉緒ちゃんが受け入れるかどうかだよ」

「受け入れるって。えっと……」


だって、タケは煙草吸わないのよね?
私にも吸えって言ってるわけじゃ、ないのよね。

首を捻っていると、「うん、だから」とタケが。


「これが当たり前だと思ってよ。莉緒ちゃん、口には出してないけど、本当は嫌だと思ってるでしょ? 高校生が煙草吸うこと」

少しだけ淋しそうに笑顔を歪めて、穏やかにそう言った。