琥珀の記憶 雨の痛み

「めんどくせぇな女は。こそこそするくらいなら吸わなきゃいいのに」


ナツはそれを聞いて、気まずそうに俯いてしまった。

メグの方は、あからさまにむっと顔をしかめた。
何か言い返すんじゃないかとハラハラしてしまう。


「アツシだって莉緒ちゃん来てからこそこそしてたくせに、よく言うわ」


にやにやと笑いながらタケが突っ込んだから、メグはそれで満足したのか表情を和らげた。

タケ、さっきから空気を読んで操るのが上手い。
気遣いの出来る人なんだ……。


「わざわざ報告することでもないでしょ。私は吸いたくなったら誰が見ていようと堂々と吸うわよ」

「あー、ケイは元々少ないの?」

「だって肌に悪いし、ニオイが付くじゃない」

ケイらしい言い分だった。
ああ、と、みんな納得したように頷いている。

事実、周りが堂々と煙草に火を点けてもケイは吸おうとしていない。


彼女はバッグから出したままのポーチをもう一度私の方へ差し出して、

「莉緒、どうする?」

と確認してきた。


返事がすぐに出てこなかった。
勢いであんなことを言ってしまったけれど、別に煙草なんか吸いたいわけじゃない。

ケイは分かってくれていそうなものなのに。


ローファーのつま先を睨みつけたまま黙り込んでいたら、突然ぽんっと肩を叩かれた。