琥珀の記憶 雨の痛み

「今は、自習だけなんですよ」と、簡単に説明する。
やはり高校生のお子さんがいるお母さんは、興味深そうに聞いてくれる。


学校の補講は予定されていたコマが終わり、教室は先生がたまに見回りに来るだけの自習室に充てられていた。

空調がない以外はそれなりに環境の整っている学校に、わざわざ出てきて勉強に励む生徒は意外と多かった。
大抵の日、補講に来ていたメンバーの半数くらいが集まっている。

私もそれまでのルーチンに従って、午前中は学校で過ごしていた。


「この暑いのにわざわざ外に出て行かなくてもねえ? 家でやればいいのに!」

「でも家だとだらけちゃってやらないものなのよねー勉強って」

と、お母さん談義が時々間に入った。


「分からないところとか、誰かしらに聞けますし。友達もいるから、お昼一緒に食べたり息抜きにもなるし」


苦手の理系科目を教えてくれたのは嶋田くんだ。
彼は確かに、滝先生よりも教え方が上手かった。
職員室に聞きにいくよりも、隣の席にいる彼に聞く方が遥かに早くて分かりやすい。


午前中はそうやって勉強し、亜樹とその彼氏の松本くんと3人で、バイトの前に一度だけ一緒にファミレスに行った。
松本くんとは直接話すのも初めてだったのに、思いの外人見知りのだんまりを克服している自分には少し驚いた。

松本くんと嶋田くんは友達だったらしくて、なんで誘わなかったんだと、後になって嶋田くんに怒られたりもしたのだけど。


「あらー良かった。ちゃんと『青春』もしてるのね莉緒ちゃん」

と、どれだけガリ勉のイメージが付いているのか、パートさんは安心したように笑った。