琥珀の記憶 雨の痛み

夕方の混み始める時間帯の前に、と、休憩の指示が出た。
遅く入った有希さんの休憩はもう少し後になるので、一旦1人でレジを離れる。


彩乃ちゃんとは時間がずれたみたいで、彼女はもう二度目の小休憩が終わった後の様だった。
多分彼女は夕方の波が終わったらそのまま上がりだろう。


レジから休憩に抜けたのは私1人だった。
同じタイミングでレジを抜けたパートさんは、この時間で上がりのはず。

さっきレジで少し騒いでしまった時に、視線を寄越したパートさんだ。
エレベーター待ちが一緒になって、少し気まずい。


「さっき、すみませんでした。売り場なのに、雑談うるさかったですよね」

気を付けます、と先手を打って頭を下げると、相手はなんだか意外そうに目を瞬いた。

あれ。あの時、視線で注意されたんだと思ったんだけど……違ったのかな。


「あー、さっきね」と、少し考え込んでから思い当たったみたいに、パートさんは笑った。


「有希ちゃんが声大きいからねー。ちょっと損よねあの子、気を付けないと目立っちゃうから」

「え……あ、はあ。でも、私もうるさかったですよね? 仕事中に私語して、ごめんなさい」

有希さん1人のせいにするみたいで、そうですねとも言えずに重ねて謝る。
けど、パートさんは本当に全然気にしていないようだった。


「社員もパートも暇な時にはおしゃべりくらいしてるわよ。大丈夫、2人とも仕事ぶりが真面目なことはちゃんと周りに認められてるんだから」

「そ、そうなんですか? てっきり、うるさかったからこっち見たのかと」


怒られると思ったのに逆に褒められて、アワアワしてしまう。
パートさんは「違うわよ」と笑いながら、さっきの視線の意味を教えてくれた。


「ごめんね、ちょっと話の内容が気になっちゃって。オバサン、有希ちゃんが高校の頃から見て来てるから。あの子がなんだか偉っそうに大人びたこと言ってるのが、妙に感慨深くて」


偉そうに、なんて言葉を使いながらも、優しい目をしていて。
この人と有希さんとの間に、しっかりとした信頼関係があるのが伝わってきた。