琥珀の記憶 雨の痛み

「か、勘違いもイイとこだよね、彩乃ちゃん。ユウくんのせいなんだから、どうにか誤解解いてよ。こっちもいい迷惑――」


俯いて赤くなっただろう顔を隠しながら、なんとか誤魔化したくて早口になる。
けどそれを、ユウくんは途中で遮った。


「いんじゃね、そう思わせとけば」

「――は?」

「見たかったな、アイツがどんな反応したのか」


……なッ!!
なんなの、このヒト!

「そんなに楽しいの!?」

ムカつく、ほんっとに腹が立つ。

身動き出来ない私の気持ち知ってて、あの夜近付きかけた私とタケの距離も、その後私が無理やりに広げた距離も全部分かってて、横から見て楽しんで――


「わけねえだろ。うぜえんだよ、お前らの恋愛ごっこ」


……『恋愛ごっこ』。
嘲笑なんかではなく、もっと冷やりとした響きだった。

カッとなった怒りは瞬時に鎮火した。
彼の声が、あまりにも冷たすぎて。


『ごっこ』……そんな、つもりは。
けど。

覚悟も出来ずにずるずると気持ちを引きずったままただ逃げ回って、本音で向き合う勇気もないくせに1人で傷ついたり凹んだり動揺したりしている私は。

本当に、恋をしてると言えるのか。


「なんなワケ、その石。大事そうに握りしめてるけど、それがどうにかしてくれんの?」


お守り、とか。自戒、とか。
手の中の琥珀は、体の良い言い訳と、ただの自己暗示だ。
見透かされているんだ、この人には。


「終わらせてやんよ、俺が」

「――え?」

「煙草ワンカートンな」

「はっ!?」


わけの分からない展開についてけなくて、聞き返そうとしたところでエレベーターの扉が開いた。


「ちょっと、今のどういう……」

「仕事しろよちゃんと」


追求する間も、言われなくてもと言い返す間もなく、ユウくんはさっさと売り場に続く扉から出て行く。

何を『終わらせる』のか……た、煙草?
意味が分からない。


けど、この扉を出たらもう仕事だ。
もう一度琥珀をぎゅっと握りしめてから、ポケットにしまった。
一旦忘れよう、仕事だ。