琥珀の記憶 雨の痛み

「た、楽しいよ、1人で食べるよりずっと」


楽しくない、本当は。

仲の良い2人の姿を見てたくないし、タケに対してどんな態度でいればいいのかも分からない。

嫉妬もする。
期待も、失望もする。

もう忘れる、忘れたなんて嘘で、未だに彼が近くにいればドキドキもするし、ざわざわもする。

そんな自分にうんざりもすれば、罪悪感だってある。


「そっちこそ、誰とも会話もする気ないなら離れて1人で食べればいいじゃない」


――嘘。
本当は、あの場にユウくんがいてくれて助かったよ。

本当は彩乃ちゃんがタケの前であんな話をしださないように、最後まであそこに居て欲しかった。


「たまたま空いてたから、席が」

「だから、あそこ私のだったんだってばっ」

しれっと言われて少し声を荒げると、ユウくんは冷笑を浮かべていた。


「嫌いなんだよ、あの空気読まねえ女」

エレベーターの閉ボタンを押しながら、彼はそう、ぼそりと呟いた。


……やっぱり、そうなのか。
予想はついていただけに、はっきりと言い切られて顔は引きつったけど、驚きはしなかった。


「……じゃあ、なんでわざわざあそこに座ったのよ」

「別に――、何か面白いモンでも見られるかと思って」


馬鹿にしてる、絶対。
悔しい。
けど、返す言葉は見つからない。


地下フロアに向かって下降していく箱の中で、彼は意味深に私を見下ろした。
上から下まで、舐めるように。


「面白かったのは俺が消えた後みたいだけどな。あの女、意外といい仕事したらしいじゃん」

「……え?」

「俺が、あんたに惚れてるって?」


――どうして?
あの場にいなかったクセに、なんでその会話を知ってるのか。

私が言ったわけじゃないのに、まるで自分がそう自惚れてるとでも思われてるようで恥ずかしくて、一気に顔に熱が集中していくのが分かった。