琥珀の記憶 雨の痛み

「――……」


え。

今何か、言った……


「悪い。あんがとね」

「!」


何か、もっとめんどくさそうな。

迷惑そうな。

そんな言葉や態度を予想していた。

差し出した手から彼がリンゴを受け取る一瞬だけ触れた指先に、過剰に反応する。


「……ぶねっ」

「あ、ごめ」

つるりと滑って落ちそうになったリンゴを空中でキャッチして、「ん」と一声を私に残して。


「リンゴ全品チェックすんぞー」

彼は新人バイトに声をかけながら行ってしまった。


……1個傷んでたから。

全部、チェックするんだ。

意外と真面目。

そんで、意外と、優しい。


いやいやいや。

夕方の『だっせ』を忘れたか。

ギャップにほだされてどうする。

仕事なんだから、今の対応は当然のことでしょうが。


怖いと。

感じ悪いと。

あんまり関わりたくないと、思ってたじゃない。


思い浮かんだ、従業員出入口の横の壁にもたれ地べたに座って煙草をふかす姿を散らすために。

ふるふると軽く頭を振ってから、持ち場に戻った。