琥珀の記憶 雨の痛み

店内をまわりながら、返品商品を棚に戻していく。

売り場の配置が分からない時には随分時間がかかったものだけど、さすがにもう慣れたもので。

後回しにしていたリンゴの番は、すぐにやってきた。


「……」


気が重い。

棚に戻して終わりの商品と違って、売り物にならないものは担当者に後処理をお願いしなくてはならない。

青果コーナーに残っているのはあの男と、私とどっこいな新人バイトだけだった。


「リンゴあっちだけど」

「!」


自分の持ち場をうろつく私が目に付いたのか、いつの間にか近くにいたアイツの声に飛び跳ねた。

至近距離だと見下ろされる。

普段は背中を丸めているくせに、売り場ではしゃんとしているから余計。


リンゴの場所すら分からないのか、と馬鹿にされたようなそのセリフが、どうしようもなく悔しくて泣きたくなった。

ただ身長差からくる威圧感に負けただけ、だと思いたい。


「これ」

こんなことで無駄に歯を食いしばっている自分が、情けない。

「棚に戻せないので」

カゴからリンゴを手にとって、顔も見れずに差し出すのが精一杯だ。