琥珀の記憶 雨の痛み

だからって、みんな呼んでるんだから名前くらい分かるでしょ!?
アイツ!

それどころか最近は『あんた』とか『お前』ばっかりで、名字ですら呼ばれなくなっていた。
なんなのよこの雑な扱いは。


1人もんもんとする私を、彩乃ちゃんはおろおろして、みんなはクスクス笑いながら見ていた。


そこに、

「――悩んでた、んだ?」

……苦笑を浮かべた、尚吾くん。
途端、心臓がうるさく鳴りだす。


「ユウに名前で呼ばれないの、そんなに気にしてたんだ。ごめん、早く教えてやれば良かったな。――莉緒」


駄目だ、みんなが……ナツが見てる。
なのに。

最後に不自然なタイミングで付け足された呼び捨ての名前が、言外の何かを含んでいるようで。

その不確かなニュアンス程度で、浮足立ってしまいそうだ。


「しょう――……」


出かけた言葉を、彼の名を、すんでで飲み込んだ。

みんなの、ナツの前だ。

『莉緒ちゃん』が『莉緒』に変わるのとはわけが違う。
その響きは、特別すぎる。


途切れた言葉の続きを待つかのように首を傾げる面々に、いくら焦ったからって。


「――しょ、醤油買ってこいって頼まれてたの忘れてた!」

ああ私の馬鹿!
もっとマシな誤魔化し方がなんで浮かばないの!?


笑い転げる仲間たちの中で、1人だけ……、その人だけは。

『しょう』に続くはずだった本当の音に、気が付いているみたいだった。