琥珀の記憶 雨の痛み

横を通り過ぎた時、何か言われた気がした。

気のせいだと言い聞かせて足早に立ち去る。

見られているような気がするけど、振り向いたら負けのような……意地、みたいなものがあった。


多分。

思い過ごしなんだろうけど。

こういうのって、あれだ。

――自意識過剰。

カッコ悪いな、私。


青果コーナーをその後も何度も通らないといけないのは、ちょっとした拷問だった。

でも向こうも閉店準備で忙しいのか、ありがたいことにそれきり接触せずに済んでいたんだ。


なのに、

「新田さん、レジ締めそこまででいいから、返品戻してきてくれる?」

社員さんから指示された返品のカゴの中でころんと転がるリンゴに、目眩がする。
レジまで持ってきたら買っていってよ!
と、いつも思うのだけど。

ちょっと小銭が足りないとか、間違って同じ商品を2個持ってきてしまったとか、卵が1個割れてたとか。

そんな理由でレジに置き去りにされる返品商品たち。


リンゴは小さな傷があり、その周りが少し悪くなっていた。