琥珀の記憶 雨の痛み

まさにサボっているとか邪魔してると思われそうで身構えていたから、まさかそんなことを言っていただけるとは思ってもいなくて。

レジを――持ち場を離れることは良くないことだと暗に思い込んでいたし、今も自己判断で彩乃ちゃんを連れ出してしまったけれど、どこかで『早く戻らないと』と思っていた。


だから、目から鱗というか。
気付けば口も開いてたし、よほどポカンとしていたからか村上さんが吹き出した。


「レジっ娘は基本真面目だからなー。まあお金扱う場所だから、採用段階でそういう人材集めてるんだけど。凝り固まるのは良くない」


村上さんの言葉に耳を傾ける。
いちいちなるほどと納得させられてしまう。
彩乃ちゃんを目線だけで指して「あの子も随分と真面目そうだな」と彼は微笑んだ。


失礼ながら年齢よりもぐっと若く見える岡本さんに対して、この人は逆に老け込んで見えるおじさん顔だ。
岡本さんならもっと素敵な人捕まえられそうなのに……と、実は内心考えたことがあったのだけど。

はじめてこうして2人で話をしてみて、彼女がこの人を選んで連れ添っている理由の一端を見た気がした。

男性として――は、私が理解出来る年齢でもないのだろうけど。
村上さんは人として、とても素敵な人だ。


「新田さん、頑張ってるみたいだね。後輩が出来てますますしっかりしてきたってレジ社員の間で噂されてたよ」

「えっ!」


急に私自身に話が切り替わって、思いもよらぬ話に上擦った声が出た。


正直、ただ必死なだけだ。

ケイがいなくなって初めて、精神的にどれだけ彼女の存在に頼って甘えていたのか痛感して。
ぽっかり空いた穴から目を逸らすように、目の前の仕事にがむしゃらになっていただけ。