「アツシ!」

鮮魚コーナーまで来ると、ちょうどアツシが品出しをしているところだった。

「おー莉緒ちゃん、お疲れ。何、暇なの? 徘徊中?」


商品を並べる手を止めて振り返ったアツシは、私の後ろに立つ少女に目を止めると「ああ」と目を光らせる。

「食レジに新しく入った高校生ってその子?」


その言葉に、当の本人はびくりと身体を強張らせた。
不自然な反応に「大丈夫?」と声をかけると、彼女は小声で聞いてくる。


「あの……使えない新人とかなんとか、そういう嫌な噂、立ってるんですか?」


泣き出しそうな情けない顔で発せられたその質問は私宛だったけれど、小さな声はアツシの耳にしっかりと届いていたらしい。

売り場にも関わらずケラケラと笑い声を上げて、「違う違う」とアツシがフォローを入れる。

「高校生バイトは少ねえから、自然に耳に入ってくんだよ」


ホッとしたように胸を撫で下ろしている彼女を、すっと前に押し出した。

「アツシ、小日向彩乃ちゃん。困ってたら助けてあげて」


丁度良いところで会った、と、紹介ついでに、魚の見分けのレクチャーはプロにお任せだ。
私の説明じゃ、どっちの方が『分厚い』とか『長い』とか、慣れるまでは見比べなきゃ分かんないような感覚頼りなものになってしまう。


アツシに彩乃ちゃんの相手を任せて、その間に鮮魚の商品をチェックする。
実はコードが付いているものの方がノーチェックで商品知識などないに等しかったから、この隙に私も勉強だ。



「新田さん」


――……部門外の社員さんから名指しで声をかけられることは、珍しい事だった。

思わず固まって一瞬凝視してしまった後で、声をかけてきた鮮魚の社員さんになんとか「お疲れ様です」を絞り出す。

一体、何の用だろう。
邪魔になるような売り場散策の仕方はしてないと思うのだけど。