「タオル」

「……は?」


借りっ放しのまんま、無意識にバッグと一緒に抱え込んでいたタオルを指されてぽかんとしていると、立ち上がったユウくんがそれを奪い取った。

「ちょ、血付いてるけどそれ!」


きっと受付で借りたのだろうから、洗って返そうと思っていたのに。
「被って帰る」と一言、本当に頭の上にそれを乗せるから呆れた。


「……いや、意味ないでしょ」

「無いよりマシかと。気になるんだろ、俺が濡れるのが」


わざとらしく語弊がある言い方で、タオルの陰から細められた目が覗いた。
口角が片方だけ上がって、からかわれているのだと気が付いた。

勝ち誇ったような自信に満ちた目に見下ろされて、悔しい。


「傘が嫌なら合羽でも着れば!」

声をあげると、彼はくっと小さく吹き出した。
笑いに混じって「合羽……だせぇ」と、完全に私のこと馬鹿にしてる。


「合羽着るのは私じゃないし、ダサいのはそっちなんだからね!」

いくら声を張り上げても全く取り合わず、合羽のどこがそんなにツボだったのか、笑い続けたまんま「はいはい」と片手をひらひらさせた。


ダサいって馬鹿にされて、正直こっちは面白くもなんともない。
でも、初めてこの人が私の前で、屈託なく笑った気がした。


『バスケ、結構本気でやってたんじゃねえの』
――名倉。
頭に被ったタオル。
自信に満ちた強気な目。
屈託のない笑い……

キーワードが出揃ったのだと思う。
パズルの最後のピースがぴったりはまった瞬間みたいに。
その時突然、記憶の扉がひとつ開いた。


忘れていたというよりも、同一人物だとはとても思えなかったから結びつかなかったんだ。

ユウくんと、『名倉祐仁』が。