――その理由が、知りたい。
ただめんどくさいとか邪魔だとか、そんな単純でくだらない理由ではないのだ、きっと。

だけどその先は、私が安易に踏み込んでいい領域なんだろうか。
この人には、私をそのテリトリーに入れる意思はあるんだろうか。


「あんたのあの石」

「……はい?」

「琥珀。重い石じゃねえだろ」

「――ッ!」


何も、言えなくなった。
何も、聞けなくなった。

分かってるんだ、彼は。
私が『何か』あって石を外したことを。
『重くて』外した、の、重いの本当の意味を。

それでも彼は聞いてこないし、私は話さない。
それはつまり、私も彼に聞いてはいけないし、彼も話す気がないということ……のような、気がした。


ただ『何か』を抱えているのだと。
その痛みの存在だけを、私たちは薄っすらと共有した。


「もう帰れ。1人で帰れるんだろ?」

「――うん」


尚吾くんが送ってくれていたのはただの甘やかしだ。
元々はいつも1人で帰っていたのだし、住み慣れたこの街に、彼が言うような危険をやっぱり私は感じなくて。

口実じみたその送る理由が、少し嬉しかったりもしていたんだけど。
これからは、もう。


「これで良かったのか、あんた」

「え?」


帰れと言われた後で、立ち上がったタイミングで。
その言葉は、答えを待っているようには聞こえなかった。

言葉少なな言い方だけれど、ユウくんの言う『これ』が、尚吾くんとナツを2人で帰したことを指しているのは明白で。
一体どこまでを見透かされているのだろうと、少しだけ怖くなる。

同時に、みんなが彼を慕い頼りにする理由が、なんとなく理解出来てしまった。