琥珀の記憶 雨の痛み

コンプレックスの足のことを、顧問に言われたから。
――本当は、別にそれだけで辞めたわけじゃない。
周りにそう言っておけば笑い話になると思ってた。


正直に言えばバスケは好きだった。
駆けている間、他のことを忘れられる。

だけど上手くなりたいとか、試合に出たいとか、勝ちたいとか。
そういう情熱があったわけではない。


強豪校で周りも中学時代から名の知れ渡っていた名プレーヤーばかりで、目指すところは地区や県レベルではなくその先の先で。
意識が、価値観が、全てにおいて格が違っていた。

私は逃げていて。
みんなは、戦っていた。


そんなチームで、明らかにレベルの劣る私がうっかり1年でレギュラー取って――しかもその理由が、太腿の筋肉で。

私、下手なのに。
練習手を抜かずに頑張ってたのは滲み付いた習性みたいなもので、別に高いところを目指していたわけじゃないのに。


汗に流れて、自分の中の嫌なモノが消えていくようで好きだった。
チームの一体感みたいなものがフィルターになって、自分もその一部みたいに、本気でバスケをしているように、錯覚した。


『1年生レギュラー』という、望みもしなかった名実伴わない肩書きが付いた途端にそれは色褪せた。
周りとの違いが、差が、急にはっきりと見えて。

怖くなって、恥ずかしくなって――また、逃げた。
それが真実だ。


ユウくんに反論出来なかったのは、真実の方がよっぽど最低と思っているからで。

「都合が悪くなったら黙るのか」

馬鹿にしたようにそう嗤われても、その通りだとしか言いようがない。


地面を叩く雨が描く模様を、じっと見ていた。
足元も背中も濡れてて、6月だというのにひどく寒い。
膝の上に抱え直した鞄の上で、琥珀を外した後の金具の残骸が、しゃらりと音を立てる。


「それとも――」

え……?

「自分の話になると、黙るのか。人には色々聞きたがるのに」


心臓が、跳ねた。
食らった言葉のせいなのか、指先に刺さった金具の先端のせいなのかは分からなかった。