琥珀の記憶 雨の痛み

ごめん、と絞り出した声は雨音に負けるほど小さく掠れ、微かに震えていた。

隣ではユウくんがごそごそと動いて、火薬の匂い――また、新しい煙草。


「あんた、副流煙の方が身体に悪いって知ってる?」

そう言って、嘲るような歪んだ笑いを浮かべる。

「……ここにいると、迷惑?」

顔色を窺えば、舌打ちが返ってくる。
それはYESを意味するのか、それとも答えるのが面倒だという意思表示なのか。
都合よく後者だと解釈して、しばらく無言でそこに居座った。


懐かしい匂いがする。
そう言えばあの人も、煙草を吸う人だった。
車の中にその残り香が充満していて、お母さんはすごく、嫌がっていたけれど。


「――煙草の匂いは、嫌いじゃないの」

突然沈黙を破ったからか、ユウくんは驚いたようにこっちを凝視した。


嫌い、ではない。
懐かしいと感じるその匂いを、多分、好きだ。
嫌いになれたら、きっとその方が楽なのに。


「……嫌がってたクセに、煙草。自分吸わないクセに、珍しいな」

「ユウくんこそ――……」

珍しい、と言われて、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


『今日は珍しく沢山しゃべるね』なんて、失礼か。
私が無理矢理居座って、ここには2人しかいないのだから、気を遣わせてしまってるのかもしれない。


「何? 途中でやめんな」

「ううん、別に」

そっちこそ、何度も途中でやめたよ。
『あんたって』の続きは、聞いたら教えてくれるのだろうか。


「……嫌われてると思ってたから、なんか意外。こうして2人で話せてるのが」

よくよく考えると、結構失礼な発言だ。
けどユウくんは、一瞬固まった後に勢いよく吹き出した。


「あんた、このグループにいたいみたいだし」

「――え?」

首を傾げる私に、ソレ、と指差されたのは……

「どうせ上げるならもうちょい分かりやすく上げれば良かったのに」

――スカート!! 気付いてたの!?