琥珀の記憶 雨の痛み

ユウくんがくっと笑いを噛み殺すのと、煙草を濡れた地面に押し付けて消したのはほぼ同時だった。

その顔を見るのが怖くて、小さな叫びをあげて消えていった火の残像を眺めていると、吸い殻は彼が取り出した携帯灰皿に回収されていく。

意外。
ちゃんとするんだ、そこは。

次々に煙草に火を点けるイメージばかりが強くて、後始末をしているとこなんか全然記憶になかったことに気が付いた。
考えてみれば彼の定位置に吸い殻が落ちていたことなど一度もないのに、どれだけこの人を印象だけで決めつけていたのだろう。


「あんたがここに残るっつった理由が分かんねえ。ここにいたいんじゃなくて、あっちにいたくないと考えたらしっくり来た」

「――……や、濡れっ放しのあなたを放っておきたくなかったのも、本当なんだけど」


なるほどその推察はお見事だけど、打算だけでここにいるわけじゃ……。

みんなが言うように、雨に濡れるユウくんを『見慣れて』『気にならない』ほどには、私はこの光景に馴染んでない。
や、多分、馴染めないと思う。


「かもな。人が好きでこうしてんのに、お節介だよな。どうせ傘は1本しかなくて、あんたが帰ったらまた濡れるだけなのに」

と、心底迷惑そうに言われた言葉は正論だ。
もうすっかり濡れてしまっているし、どうせ別れた後も濡れるし、こうしていても意味がないと言われたらそこまでで。

だけど、だからって――気持ちの問題だ。

あれ。気持ちの?
誰の? 私の?


ああ、そうか。
これは自己満足の親切の押し売り、なのか。
もっと言えば、『私は彼が雨に濡れないように最大限の努力をしました』――そういう免罪符が、欲しいだけなのかもしれない。

傘を差さない彼を放っておけるみんなの方が、よっぽど優しくて。
無理矢理傘を差し出した私は、やな奴だ。


「ねえ、どうして傘差さないの? 傘買いに行こうよ、コンビニ付き合うよ。それか、借りれる傘がないか、守衛さんに聞いてこようか?」

「だから放っとけって、今日に限ったことじゃねえし」


しつこく食い下がると、ユウくんは本当に嫌そうに顔を歪めた。
そうして呟かれた凍り付くように低い三度目の「あんたって……」に、彼の不快感が滲んでいるようだった。