琥珀の記憶 雨の痛み

驚きすぎた。

声も出せずにぽかんとしている内に、アツシが何か面白そうな顔で、からかうようなことを言った気がする。
メグがそれを静止するように肘で突いた。

尚吾くんも何か、言った。
無表情で。

その隣ではナツが、喜びを隠しきれずに目を細めて笑っている。
ほんのりと頬を染めた彼女の視線が、傘の下からこっそり尚吾くんを捉えた。


しゃがんでいるから、みんなの顔はよく見えた。
なのに、音が入って来ない。
いつもと同じような風景が、下から見上げると全く様相を変える。


なんでみんな、口パクなんだろう。
――って、そんなわけない。

ほんの一瞬だけ機能を失ったみたいな聴覚はすぐに元に戻った。
襲うように一気に耳に入ってきたのは、降り続ける雨音だ。


「莉緒、遅くならないで。帰り、気を付けて」

「あ、うん……ありがとう」


二手に分かれて、みんなが去っていく。
最後にナツがこっそり振り返って、意味深な目配せをしてきた。

そこでやっと気が付いた、ナツは私がユウくん狙いって誤解したままだということに。
いや誤解というか、希望的観測というか、決めつけというか……微妙なとこだけど。


さっき音を失っていた間の彼女の笑いは、どっちの意味だったんだろう。
私がユウくんと2人になれて、良かったね?
それとも、自分が尚吾くんと2人になれるのが嬉しい?

……どっちにしても、私的には笑えないけど。


「これで良かったん?」

みんなの背中が雨の向こうに消えて見えなくなった頃に、隣からそう声がかかってハッとした。

「あ……えっと。助けてくれたの?」


言ってしまってから、しまった、と思った。
一体何から助けたというのだろう。
この人は私の気持ちもナツの気持ちも、何にも知らないはずなのに。