琥珀の記憶 雨の痛み

雨で霞む視界の隅に、それでも否応なく入ってくる存在にぎょっとした。

「ちょ……ッ! 何やってるの!?」


出入り口横の壁際、定位置。
地べたに腰降ろして、足投げ出して。
いつも通り過ぎるでしょ。


「なんで傘差さないのよ!?」

慌てて近寄って差し出した傘に入れるけど、私も座らなきゃ無理だ。
足元と言わず、雨は容赦なく吹きこんでくる。


なのに当の本人は、びしょ濡れなのも雨に濡れて消えかけている煙草も気にした風もなく。

「あー。あいつらなら、駐輪場の屋根下に逃げた」

そう言って、自転車置き場の方を指差した。


つられてそちらへ目をやると、雨煙の向こうに辛うじて赤が見える。
多分メグの傘の色だ。

屋根下と言っても別に屋根になってるわけじゃなく、2階構造の駐輪場の1階ってことだ。
屋根代わりになる2階の床は通気孔だらけの鉄板だから、この雨ならばあそこだってそこそこ濡れるだろう。

けど。


「ユウくんもあっち行けばいいのに!」

ここの雨ざらしよりは大分マシだ。
なんでこんなとこで1人で、こんなに濡れて……


「莉緒、ユウはいつもそうだよ。もう見慣れたから、全然気にしてなかったな」

「絶対傘差さないよねぇ。初めて見た時はナツもびっくりしたよー!」

背後から、尚吾くんとナツが言ってくる。
確かに今までも、雨上がりの濡れた地べたに普通に座ってたり、小雨の中気にせずに濡れているところを見た気がするけど。


いつも?
見慣れた?
絶対傘差さない?

……おかしくない?


「……なんで? 濡れたいの? 傘持ってないの?」

濡れたい?
そんな毎回、雨が降る度に?
傘を買うお金がないほど貧乏……まさか!


質問攻めにする私には目もくれず、それでも差し出している傘に雨が多少は遮られているのを良いことに、ユウくんは新しい煙草を出して火を点けた。

な、何それ。
放っておけって意思表示ですか!?