琥珀の記憶 雨の痛み

「あれ」と、ピンと来たのか有希さんの目が光った。
悟られたくない――。

妙に得心したような笑いを浮かべて彼女は何度も頷いた。


「分かるわー。めんどくさいよねぇ、男女のグループ内での色恋沙汰って」


そう言ってぽんぽんと肩を叩いてくる有希さんが、どういう意図で言っているのか分からずに笑って誤魔化す。

一般論として、だろうか。
それとも、私が隠した気持ちに気付かれたんだろうか。
確認するのが怖くて、薄ら笑いを貼り付けたまま黙り込んだ。


「大丈夫、言わないから」

と、有希さんは私の沈黙をどう解釈したのか、「任せといて」とでも言わんばかりの胸を叩くジェスチャーをする。
何をとは聞けないまま、彼女は今度こそ帰って行った。


1人取り残された更衣室でのろのろと着替える。
外は雨だ。
静まり返った部屋の中まで、雨音が充満していくような気がした。

「出たくないなぁ、外」

……雨だから。
そういうことにしておこう。


いつも雨が降れば良いのにって、数日前にはそう願っていたはずだった。
傘を差すと2人並んでは歩けなくて、話が出来なくて。


『莉緒、一緒にこっち入れば』

大きな傘だった。
けど、2人で入ると狭くて、肩が触れて。
慌てて離れようとすると、濡れるよって強引に引き戻された。

バクバクいってる心臓の音が聞こえてないか心配だった。
心臓、痛くて。
だけど、たったそれだけで幸せだった。


『酷いな莉緒、俺の名前知らないの?』

『大分昇格した気がする』


――2人の距離は。
これからもっと縮まっていくものだと、思っていた。