琥珀の記憶 雨の痛み

――『ケイはバイトを休んだだけでも心配してもらえるのに』

ほんのちょっと前に感じた妬みの種が、すうっと消えていった。
何も言わなくても私を見てくれている人は見てくれていて、気付いてくれている。

心配をかけたかったわけじゃない、ただ誰かに気付いて欲しかった。
辛い気持ち、悩んでいる最中だということを知っていて欲しかった。

別にそれを誰かに話したかったわけでは、なくて。
ただ誰にも気付かれない自分がひどく惨めに感じて……、見て、欲しかっただけなのだ。


「心配かけてごめんなさい。岡本さんのおかげで、すごくすっきりしました」

「あらそう? 何かしたかしら私。こき使っただけだけど?」


笑いながらそう言って、岡本さんは詮索はして来ない。
それがありがたかった。

バラバラの1個1個はごく些細な問題で、合わさって絡み合ってマイナスだけが増幅していったような気がするけれど、それを人に説明するのはとても難しい。

根底にあるのはきっと――


「性格とか価値観とか考え方って、簡単に変えれるものですかね」

「……それが今新田さんが抱えている問題なの?」


意外そうに目を白黒させる岡本さんに、いや、と曖昧に苦笑して濁す。
しばらくまじまじと私の顔を見つめたまま黙っていた彼女は、「若いって良いわね!」と突然大声を出した。


「10年スパンで見たら、変わってない方が問題だわよ。見たもの聞いたもの、環境、経験、出会った人――色んなインプットから影響受けて、誰だって少しずつ変わっていくものなんじゃない? 成長よ成長、人間日々成長」


いとも当たり前のように岡本さんはそう言って、ばしんと力強く一発背中に喝を入れられる。
「ま、私は10年若返れるんならそうしたいけどね」と冗談まじりに笑いながら、彼女はそのまま背中を押してきた。


「ほらもう上がりなさい。友達待たせてるんでしょ?」

「――ありがとうございました」