琥珀の記憶 雨の痛み

「莉緒、お疲れ! 今あがり?」

「タケもいるー。これ棄てたら終わりだからちょっと待っててぇ。上まで一緒行こー」


……なんて言うか。
予想通り、のタイミングで、長靴をぺたぺたと鳴らしながらナツが出てくる。
メグも一緒だったのが、ちょっとした救いだ。


「ごめん、私もう一仕事。先行ってて。お疲れー!」

場を切り抜けるにもちょうど良いきっかけではあった。
心なしか物言いたげな表情のタケと、何の疑いも持たずにひらひらと手を振る2人に別れを告げて仕事に戻る。


油売ってちゃダメダメ、仕事中なんだから。
信頼を得る一歩を踏み出したところ、かもしれないんだから。

言い聞かせて、そうやってまた自分を正当化して誤魔化して――、ナツと尚吾くんが同時に存在する、その空間から逃げた。

今を適当に凌いだって、どうせまたすぐ後で顔を合わせることは分かっているのに。


また少し、自分を嫌いになる。
でももう、『新田莉緒』の順位は、これ以上下がらないんだから。
開き直る……フリをする。

せめてちょっとでも自分を好きになれるように、やるべきことくらいはちゃんとやろう。
つまりお仕事だけど、さ。

仕事を理由に逃げた。
そこに理由を付けて、正当化した。
――堂々巡りで嫌になる。

でもじゃあどうするの? って、やるよ仕事。
逃げただけで何もしないよりは、その方がよっぽどマシな人間じゃない。


『上まで一緒行こー』

……今まで彼女があんな風に言ったことあったかな。
小さなアピールが、始まったんだろうか。

耳に残るナツの言葉を、無理矢理意識から切り離した。